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夜勤は今日も静かに終わらない。看護師10年目の、きれいじゃない本音

ダークグレーのスクラブを着た40代の疲れた男性看護師が、夜勤明けの窓辺で壁に寄りかかり、缶コーヒーを手にぼんやりと虚空を見つめている。窓枠にはエナジードリンクと2026年3月25日の日めくりカレンダーが置かれ、カレンダーには「高齢者・肘関節整復の違和感」と書かれた付箋が貼られている。背景には『Rational Escape Theory』というタイトルの本などが並んでいる。

夜勤前は基本的に憂鬱だ。

今回も行きたくなくて、それでも頑張って行った夜勤だった。

前日から、そろそろステルベンしそうな人がいると聞いていたせいで、ただでさえ重い足取りが、さらに重くなっていた。

普通に夜勤だけでも十分に嫌なのだ。
そこへ「たぶん今夜あたり」という空気まで乗せられる。看護師って、勤務が始まる前からじわじわ削られる仕事なんだなと、こういう時に思う。

で、いざ出勤してみたら、その人はもうお迎えの準備を終えていた。

夜勤にはかからなかったよ、と言われる。

正直、ほっとした。

もちろん、亡くなったこと自体は悲しい。

そっと手を合わせて、お別れもした。そこに嘘はない。

でもその一方で、心のどこかで「夜勤中じゃなくてよかった」と思ってしまう自分もいる。

たぶん、こういうのは現場で働かない人にはあまり理解されない。

人の死に対して“ほっとする”なんて不謹慎だと思うかもしれない。

でもこっちだって好きでそんな感情になってるわけじゃない。死を軽く見てるんじゃなくて、ただ修羅場を前にして身構え続けるのに疲れてるだけだ。

悲しいのと、ほっとするのは、別に矛盾しない。

現場ではわりと普通に同居する。

たぶんそれが、きれいごとでは済まない仕事ってことなんだと思う。

夜勤が始まって、慌ただしい食事の時間が終わるころには、今度はホールがざわつき始めた。

こういうざわつきって、不思議なくらい広がる。

一人が落ち着かなくなると、空気まで落ち着かなくなる。

あちこちで小さな火種がくすぶっていて、「あ、今日はこのまま静かには終わらないな」とわかる。夜勤って、平穏そうに見える時間ほど信用できない。

そんな中で、介護士さんから

「すいません、〇〇さんが転倒しました」

と報告が入る。

まあ、転倒自体は珍しくない。

正直、またか、と思う。

でも今回はかなり痛みが強そうだった。

外傷を確認する。

失血なし。

今のところ内出血も目立たない。

歩行もできる。

ただ、右肘関節が怪しかった。

触ると苦悶の表情が強くあらわれる。

屈曲位から伸展を極度に嫌がる。

腫れはまだ目立たないけど、痛みはじわじわ強くなっている感じがある。

バイタルを測って、当直医へ報告。

診察を依頼する。

幸い、明らかな骨折ではなさそうだった。

救急搬送もなし。

ただ、脱臼か肘内障か、ということで、その場で整復が始まることになった。

当然、患者さんは痛みに反応して暴れる。

叫ぶ。

蹴る。

で、こっちはそれを支えながら整復の介助をする。

こういう時いつも思う。

夜勤って、静かに記録を書いたり、穏やかに巡視したりしている時間より、「なんで今それが来るんだよ」みたいな時間のほうが、ずっと夜勤らしい。

しかも、人手が少ない時に限ってちゃんと起こる。

現場ってほんと、こちらの都合を一切考慮しない。

まあ、患者さんの状態がこちらの都合に合わせてくれるわけないので、当たり前なんだけど。

当たり前なんだけど、せめて少しは空気を読んでほしいとか思ってしまうあたり、たぶんもう疲れてる。

でも、当直医の腕が良かったのか、整復は思ったよりあっさり終わった。

「はまったわ」と一言。

患者さんも少し落ち着いて、さっきまでの強い痛みが和らいだようだった。

その瞬間、ようやく少し息がつけた。

で、そういう時に限って、変なことを考える。

ステルベンに当たらなかったことにほっとした、そのバツが当たったんじゃないか、とか。

もちろん、そんなのただのこじつけだ。

出来事に意味なんてないし、夜勤はただ普通にしんどくて、現場はただ普通に慌ただしいだけだ。

でも、人間って疲れてくると、因果関係のないものに意味をつけたくなる。

少し安心した自分に対して、「そんなふうに思ったからだろ」と勝手に罰を与えたくなる。

たぶん、真面目な人ほどそういう無駄な反省をする。しなくていいのに。

結局、今日もこうして夜勤をこなしていくんだろうと思う。

立派だからじゃない。

使命感に燃えてるからでもない。

ただ、その場その場で起きたことを片づけて、朝までなんとか持ちこたえるだけだ。

たぶん夜勤って、そういうものだ。

きれいじゃない感情もある。

ほっとしてしまう自分もいる。

面倒だと思ってしまう瞬間もある。

それでも一応、必要なことはやる。

完璧な医療者じゃなくても、夜勤は回る。

いや、むしろ、こうやって心の中では文句を言いながらじゃないと、長くは続かないのかもしれない。

……これでも看護師歴10年だ。

あの時はその場を回すので精一杯だったけど、あとから考えると少し引っかかる。
高齢者に肘内障は原則ないはずだからだ。
その違和感を症例ベースで掘り下げたのが「高齢者には肘内障は起きない。じゃあ、あの夜勤で何が起きていたのか」で、
脱臼と肘内障の違いそのものを整理したのが「脱臼と肘内障の違い。高齢者でも肘内障になる?」です。

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