現場にいると、時々ある。
「え、それ本当にその診断でいいの?」
みたいなやつだ。
忙しいと、その場では流れていく。
医師がそう言ったならそうなんだろう、で終わることもある。
でも、あとからじわじわ引っかかる。
あれ、年齢的におかしくないか。
それ、子どもならわかるけど、高齢者で起きるんだっけ。
そういう、夜勤明けの脳みそに宿題だけ置いていくタイプの症例がある。
今回のケースも、たぶんそうだ。
転倒後、右肘の痛みが強い。
伸ばすのを嫌がる。
明らかな骨折所見はない。
医師が整復操作をすると、クリック音とともに症状が軽くなった。
で、そこで出てきたのが「肘内障の疑い」という言葉。
でも正直、そこに引っかかった。
高齢者に肘内障って、原則起きないはずじゃないか。
結論から言うと、その感覚はたぶん正しい。
むしろ、そこをちゃんと疑えた時点で、かなりいいアセスメントだと思う。
高齢者に肘内障は原則起きない
まず前提として、高齢者や大人が小児と同じ意味での肘内障になることは、原則ない。
肘内障は、主に1歳〜6歳くらいの子どもに起こる。
橈骨頭がまだ未熟な形をしていて、輪状靭帯から外れかかりやすいからだ。
でも成長すると、橈骨頭の先端はふくらんで、いわばストッパーが完成する。
だから大人では、小児のように骨が靭帯からすり抜ける形の肘内障は起こりにくい。
つまり、
「高齢者なのに肘内障」
この時点で、一度立ち止まる価値がある。
忙しい現場では、そういう立ち止まりって意外と大事だ。
だいたい事故るのは、「まあそういうこともあるか」で雑に流した時だから。
じゃあ、実際には何が起きていたのか
このケースで考えられるのは、大きく3つある。
1. いちばん可能性が高いのは、関節の中で何かが挟まった状態
たぶん、これが一番しっくりくる。
転倒の衝撃で、肘関節の中にある滑膜のヒダのような軟部組織や、加齢で生じた関節遊離体、いわゆる関節ネズミみたいなものが、関節の隙間に挟まった可能性だ。
要するに、関節の中で何かがドアストッパーみたいになってしまった状態。
こうなると、特定の角度で激しく痛む。
今回のように、屈曲位から伸展を嫌がるという所見とも合いやすい。
しかも、受傷直後はまだ腫れが目立たないこともある。
だから、
「腫脹はないのに痛みが強い」
という初期所見ともそこそこ一致する。
医師が整復のような操作をしたことで、挟まっていたものがスポッと外れた。
その瞬間がクリック音として感じられた。
そう考えると、かなり筋は通る。
現場では「肘内障っぽいですね」で話が進んでも、実際の中身はこういう関節内の嵌頓だった、というのは十分ありえる。
2. 外傷性の亜脱臼だった可能性
次に考えられるのが、外傷による軽いズレだ。
小児の肘内障みたいに、靭帯の中を骨がするっと抜けたというより、
転倒というちゃんとした外力で、関節包や靭帯が傷みながら少しズレたパターン。
これなら、動かすと強く痛いのも自然だし、整復で元の位置に戻った時にクリック音がしてもおかしくない。
ただ、この場合はあとから変化が出てくることがある。
その場では腫れが目立たなくても、時間がたつと腫脹や皮下出血が出てくる可能性がある。
だから、整復して痛みが軽くなったから終わり、ではなくて、その後の経過を見る視点が必要になる。
夜勤って、その場で落ち着くと人はすぐ安心したくなる。
わかる。ものすごくわかる。
でも、外傷ってわりと後から本性を出してくる。嫌なやつだ。
3. 医師が便宜上「肘内障」と言った可能性
これも臨床では普通にある話だと思う。
医師もたぶん、高齢者に典型的な肘内障は起きないことは知っている。
でも現場では、いちいち長く説明している暇がない。
「関節に何かが挟まったか、少しズレたかしてロックされていた。
でも整復したらクリック音とともに治った」
この流れを、スタッフに一番手っ取り早く伝えるために、
**“肘内障みたいなもの”**という意味で、便宜上そう表現した可能性はある。
厳密に言えば雑だと思う。
でも現場って、正確さと伝わりやすさの間で、わりと毎日妥協している。
いいか悪いかは別として、そういうことはある。
このケースから何を学ぶか
この事例で大事なのは、
「医師が肘内障と言ったから肘内障」では終わらせないことだと思う。
むしろ、
- 年齢的にその診断はありえるのか
- 外傷のきっかけと合っているか
- 腫れや変形はあるか
- どの動きで痛みが強いか
- 整復後にどう変化したか
そこまで見ていくと、現場の解像度が少し上がる。
高齢者に肘内障は原則ない。
この前提があるからこそ、
「じゃあ何が起きていたんだろう」と一段深く考えられる。
看護師は診断をつける仕事ではない。
でも、“なんか変だ”を見逃さないことはできる。
それだけでも十分強い。
まあ、実際の夜勤中はそんな余裕ないんだけど。
コールは鳴るし、記録は残るし、転倒は起きるし、こっちの脳みそも夜中にはだいぶ信用ならない。
それでも、あとから振り返って、
「あれは小児の肘内障ではなく、関節内の嵌頓か、外傷性亜脱臼だったかもしれない」
と考え直せるなら、それはちゃんと次につながる。
夜勤はだいたい、しんどいだけでは終わらない。
たまにこうやって、余計な宿題まで置いていく。
でも、そういう引っかかりを雑にしないことが、
結局いちばん自分を助けるのかもしれない。
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